「運動したい」と思っていても、毎週続けられるとは限らない。スポーツ庁が2025年3月に公表した2024年度の調査では、20歳以上で週1回以上の運動・スポーツを実施した人は52.5%だった。一方、週1回以上実施したいと思う人は66.6%で、両者には14.1ポイントの差がある。
この記事でわかること:週1回の実施率と希望率の14.1ポイント差、勤務先の取組がある就業者で見られる数値、そして「意欲が足りない」とは言い切れない理由。
不足しているのは意欲そのものではなく、意欲を行動へ移す条件かもしれない。数字を並べるだけでは見えにくいが、この差は、健康や余暇に関心がない人の割合ではない。少なくとも週1回は運動・スポーツをしたいと答えた人の一部が、実施という段階まで届いていないことを示す。
希望者3人に1人弱が週1回の実施へ届かない
希望率66.6%から実施率52.5%を引くと、差は14.1ポイントになる。100人に置き換えると、週1回は運動・スポーツをしたい人が約67人いるのに対し、実際に週1回以上実施した人は約53人という規模だ。希望者の数と実施者の数を同一人物ごとに突き合わせた数字ではないため、「希望した67人のうち14人ができなかった」と読むことはできない。それでも、希望と実態の間に無視できない隔たりがあることは分かる。
ここでいう実施率は、週1日以上の「運動・スポーツ実施率」である。毎日運動する人だけを数えた指標でも、競技スポーツの参加者だけを数えた指標でもない。したがって52.5%は、運動習慣の強弱を細かく示す数字というより、生活の中に週1回の機会を置けたかを測る一つの境目として読むのが適切だ。

14.1ポイントを相対的な大きさで見ると、実施率52.5%に対して約27%に当たる。これは希望率と実施率を因果関係に置き換える計算ではないが、差が端数程度ではないことをつかむ助けになる。運動を始めるきっかけを作る施策だけでなく、始めた後に週1回へ定着できるかまで見る必要がある、という問題提起には十分な大きさだろう。
「やりたい」と「できる」の間には、予定を組み替える負担がある
調査は、特に20代から40代の女性で希望と実態の乖離が大きいとしている。この結果だけから、家事、育児、就労時間、費用、近くの施設の不足のどれが主因かを順位付けすることはできない。調査の公表資料は乖離の存在を示しているが、個々の人が週1回に届かない理由をこの一つの数字で説明しているわけではないからだ。
ただ、週1回の行動は「やる気があるか」だけでは決まらない。帰宅時間が読めるか、着替えや移動を含めた時間を確保できるか、天候に左右されない場所があるか、一緒に参加する人がいるかといった条件が重なる。特に短時間の運動でも、予約、移動、子どもの預け先、道具の準備まで含めれば、空いた30分を見つけることとは別の問題になる。
実施率と希望率は、同じ回答者を追跡して「希望した人が実行できたか」を測った数字ではない。二つの割合の差は行動化しにくさの手掛かりであって、個人ごとの不達を直接数えたものではない。
この読み方は、個人の努力を軽く見るためではない。むしろ、意思だけに原因を帰すと、仕事の予定、地域の施設、家族との調整といった変えられる条件が議論から外れてしまう。運動を促すメッセージを増やしても、参加する時間帯や場所が生活に合わなければ、希望率だけが先に高くなることがある。
日本代表の試合をきっかけに観戦への関心が高まることと、生活の中で運動することも別の行動だ。W杯の試合データを検証した記事が扱うのは競技を観る側の数字であり、ここで見ているのは日常の継続である。観戦の盛り上がりを地域の運動機会へどうつなぐかは、イベントの評価とは切り分けて考えたい。
職場の取組がある就業者では、全体より17.6ポイント高い
同じ公表資料では、就業者について、勤務先で「運動・スポーツを活用した取組」がなされている場合の週1回以上の実施率は70.1%だった。全体の52.5%との差は17.6ポイントである。職場を起点にした取組がある環境では、週1回の実施がより多く見られた、というのがまず確認できる事実だ。

この17.6ポイント差は、職場施策だけの効果を証明する比較ではない。取組を行う職場には、もともと健康への関心が高い従業員が多い可能性もある。業種、勤務形態、年齢構成、都市部か地方部かといった違いも、ここに含まれているかもしれない。70.1%を見て、直ちに「同じ施策を導入すれば17.6ポイント上がる」と結論づけるのは飛躍になる。
それでもこの数字には意味がある。運動は個人の私的な時間に任せるしかないものではなく、時間、仲間、情報、参加のきっかけを整える側の工夫と関係しうることを示しているからだ。昼休みの短いプログラム、勤務前後に利用しやすい施設、歩数競争のような軽い参加、休暇取得と矛盾しないイベントなど、取組の中身によって負担は大きく違う。重要なのは、参加を義務化することではなく、参加しない人を不利にせず選べる入口を増やすことだろう。
また、70.1%は「取組がある就業者」の数字であり、学生、求職中の人、退職後の人を含む全体の数字ではない。職場を持たない人にも届く仕組みとして、自治体の教室、公共施設の時間帯、地域クラブ、近所で歩ける環境をどう組み合わせるかは別途考えなければならない。職場だけを万能な解決策にしないことが、全体52.5%との差を正しく読む前提になる。
評価すべきなのは参加者数だけでなく、続けられる導線
14.1ポイントの差は、運動を嫌う人の比率ではない。週1回はやりたいと答えた人が、実際の行動へ移る余地の大きさとして読むことができる。行政や職場、地域のクラブが施策を評価するときは、初回参加者数だけでは足りない。参加した人が翌週、翌月にも同じ機会を利用できたか、参加しなかった人が何に困ったかまで追わなければ、希望と実施の間が縮んだかは分からない。
例えば、利用者数の多い一回限りのイベントは、入口として有効でも習慣化を保証しない。逆に参加者が少なくても、自宅や職場から近く、予約が不要で、誰かと一緒に行ける場は継続につながる可能性がある。数値として確認すべきなのは、参加者総数、継続率、開催時間帯ごとの利用、参加しなかった理由などだ。今回の調査だけではそれらを判断できないため、施策の成否を語る際には別の利用データが必要になる。
このとき、週1回を唯一の正解として人を評価しないことも大切だ。体調、障害の有無、介護、勤務時間などによって、無理なく確保できる頻度は異なる。実施率は社会全体の傾向を知るための指標であって、個人の健康状態や努力を採点する数字ではない。だからこそ、参加を増やす取組は、できない人を責める言葉ではなく、短い時間でも安全に参加できる選択肢を増やす形で設計されるべきだろう。
さらに、希望率が高いこと自体は、施策の成果でも失敗でもない。希望を持つ人が多い社会であれば、その希望を受け止める場が足りているかを確かめる必要がある。反対に実施率だけが上がっても、特定の層に参加が偏っていれば、誰にとっても使いやすい環境になったとは言えない。年齢、性別、働き方、居住地ごとの違いを確認し、参加しやすい人だけが増えていないかを見る視点が欠かせない。
個人にできる工夫としても、最初から大きな目標を置く必要はない。通勤や買物の動線に歩く時間を組み込む、予定を固定せず天候のよい日に選べる活動を用意する、知人と約束して参加のきっかけを作る、といった方法はあり得る。ただし、こうした工夫が可能かどうかも、住む場所や働き方に左右される。個人の選択と環境整備を対立させず、両方を見ていくのが現実的だ。
費用、移動距離、健康状態、家族構成などが乖離にどれほど寄与したかも、この調査からは定量化できない。次の施策を決めるには、年齢・性別ごとの希望と実態に加え、地域ごとの施設・交通事情や、実際に感じている障壁を組み合わせて見る必要がある。施策を導入した後も、参加しなかった人を含む声と利用状況を確かめ、条件が改善したかを検証し続けることが欠かせない。希望率と実施率の両方を継続して見ることで、見かけだけの参加増を避けられる。「運動したい人を増やす」から「運動したい人が続けられる条件を整える」へ。14.1ポイントは、その視点の転換を促す数字である。
データソース:スポーツ庁「令和6年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」