2025年の家計調査では、二人以上世帯の貯蓄現在高が2059万円、負債現在高が675万円となり、どちらも過去最多でした。平均値だけを見ると家計は豊かに見えますが、実際には貯蓄の偏りと住宅負担の重さが同時に進んでいます。
家計の数字を見るとき、貯蓄が増えていると聞けば安心材料に見えます。総務省統計局が2026年5月19日に公表した2025年平均の家計調査・貯蓄負債編では、二人以上の世帯の貯蓄現在高は2059万円となり、前年より75万円、3.8%増えました。7年連続の増加で、比較可能な2002年以降では最多です。
ただし、ここで単純に「家計は豊かになった」と読むのは危ういです。同じ資料では、負債現在高も675万円で、前年より12万円、1.8%増えています。こちらも4年連続の増加で、2002年以降で最多でした。つまり今の家計は、貯蓄も増えるが、借金も増えるというねじれた姿になっています。
2059万円という平均値は、家計の実感をそのまま表さない
2059万円という数字はかなり大きく見えます。ですが、平均値だけで家計の実態を語るのは危険です。貯蓄保有世帯の中央値は1264万円で、平均値を大きく下回っています。さらに、平均値2059万円を下回る世帯が全体の66.1%を占めています。つまり、少数の高額貯蓄世帯が平均を押し上げている構図がかなり強いのです。
平均値2059万円には貯蓄がゼロの世帯も含まれます。一方、1264万円という中央値は、貯蓄がゼロの世帯を除いた「貯蓄保有世帯」を少ない順に並べた真ん中の値です。分母が同じではないため、両者を同じ種類の平均として差し引くことはできません。それでも、平均を下回る世帯が66.1%という分布と併せて見ると、2059万円を「ふつうの世帯が持つ額」と受け取るのは適切ではありません。

この偏りは、いまの日本の家計を見るうえでとても重要です。平均では貯蓄が積み上がっていても、多くの世帯はそこまで届いていません。家計全体に余裕が広がったというより、貯蓄できる世帯とそうでない世帯の差が大きいまま、全体の数字だけが上がっている可能性があります。消費の側から見ても、家計消費はまだ弱いという動きが続いており、貯蓄の平均値だけで暮らし向きの改善を判断しにくい状況です。
平均値と中央値は意味が違います。 平均値は一部の高額世帯の影響を受けやすく、中央値の方が「真ん中の世帯」の感覚に近い場合があります。
増えているのは現金と有価証券、でも負債の中心は住宅ローンだ
貯蓄の中身を見ると、通貨性預貯金は710万円で17年連続の増加、有価証券は440万円で3年連続の増加でした。通貨性預貯金は前年より18万円、2.6%増、有価証券は63万円、16.7%増です。株高や資産運用の広がりが、貯蓄額を押し上げている面もありそうです。

一方で負債の中身はかなりはっきりしています。675万円ある負債現在高のうち、620万円が住宅・土地のための負債で、全体の91.9%を占めています。住宅ローンが家計負債の中心であり、しかもそれがなお増えているということです。家計のバランスシートは、資産の積み上がりと住宅負債の積み上がりが同時に進む形になっています。
ここにも平均を見る際の注意があります。負債を持つ世帯は全体の37.5%で、負債保有世帯だけの平均は1802万円、中央値は1511万円です。675万円は負債がない世帯も含めた全世帯平均なので、住宅ローンを抱える世帯の負担の大きさをそのまま表す額ではありません。貯蓄2059万円から負債675万円を単純に引いて「平均世帯の純資産は1384万円」と見ることも、貯蓄と負債の保有者が必ずしも同じではないため、家計の実態を表す計算にはなりません。
この姿は、住まいにかかる負担が依然として大きいことも示します。持ち家を持てる世帯では住宅ローンが家計負債の中心になり、持てない世帯ではそもそも資産形成が進みにくい。家計の見え方は、住宅との関わり方で大きく分かれます。実際、持家の弱さが続く住宅着工を見ても、住まいをめぐる負担感は簡単には軽くなっていません。
若い世帯はまだ「負債超過」だ
世帯主の年齢階級別に見ると、50歳未満の各年齢階級では、貯蓄現在高より負債現在高の方が大きく、負債超過になっています。40歳未満では貯蓄994万円に対して負債1882万円、40〜49歳でも貯蓄1381万円に対して負債1483万円です。貯蓄が積み上がる前に住宅取得や教育費負担が重なりやすい世代ほど、バランスシートは厳しいままです。
貯蓄現在高から負債現在高を引くという資料と同じ計算をすると、40歳未満はマイナス888万円、40〜49歳はマイナス102万円です。これは各年齢階級の平均値同士を比較した計算であり、個別世帯の残高を示すものではありません。それでも、50歳未満では負債が貯蓄を上回り、50歳以上で貯蓄超過に転じるという資料の整理を、金額差でも確認できます。若年層の家計余力を全世帯平均だけで判断しにくい理由がここにあります。
反対に、50歳以上では貯蓄超過に転じ、60〜69歳の純貯蓄額は2609万円と最も多くなっています。つまり、家計の安心感は世代でかなり違います。全体平均の貯蓄増加は、若い世帯の余裕を意味しないのです。ここを見誤ると、家計政策も消費の見方もずれやすくなります。単身世帯の側でも、一人暮らしの消費が弱い動きが出ており、家計の弱さは平均貯蓄では覆いにくいことが分かります。
2025年のポイント
- 貯蓄現在高は2059万円で7年連続増加、2002年以降で最多
- 負債現在高は675万円で4年連続増加、2002年以降で最多
- 平均以下の貯蓄世帯が66.1%を占め、50歳未満では負債超過が続く
いまの家計を読むうえで重要なのは、「平均では豊かそうに見えるが、実際には偏りが大きい」という点です。資産価格の上昇や預貯金の積み上がりで数字が押し上がっても、その恩恵は一様ではありません。特に若い世代や住宅取得期の世帯では、生活の安定感はまだ弱いままでしょう。
家計の貯蓄と負債が同時に増える姿は、日本社会の二層化をかなり素直に映しています。資産を持つ世帯はさらに積み上がりやすく、これから資産形成する世帯は負債を抱えやすい。平均の改善だけでは見えない、この分かれ方こそが今後の消費や住宅市場を読む鍵になりそうです。
ただし、今回の家計調査は二人以上の世帯についての年平均で、単身世帯を含む「全ての家計」の資産分布ではありません。また、金融資産の残高と住宅・土地のための負債を示す統計であり、住宅そのものの時価まで差し引いた純資産額ではありません。貯蓄額の上昇を、すべての世帯の生活余力や資産格差の拡大と直結させないことが必要です。分布、年齢、負債の有無という複数の切り口で見ると、平均の増加が示す範囲と示さない範囲を分けられます。
平均の上昇を、家計全体の余裕と取り違えない
今回のねじれの背景には、家計の中で「資産形成が進む層」と「負債を抱えながら生活する層」が同時に存在していることがあります。高齢層や既に資産を保有している世帯は、預貯金や有価証券の増加によって貯蓄額を押し上げやすい。一方で若年層や住宅取得期の世帯は、住まいのための負債を抱えながら、まだ十分な資産形成に届きません。同じ家計統計の中に、かなり違う経済状態の世帯が混ざっています。
もう一つ大きいのは、住宅が家計の最大の資産であると同時に最大の負債でもあることです。住宅価格や建築費が高い状況では、持ち家取得は資産形成の入口である一方、家計の柔軟性を削る要因にもなります。だから貯蓄と負債が同時に増えるのは矛盾ではなく、日本の家計が不動産を軸に資産と負債を同時に積み上げている結果とも言えます。
今後の焦点は、この偏りが消費と住宅市場にどう波及するかです。若い世代の実質所得改善が弱いままなら、平均貯蓄が増えても消費は広く強くなりません。逆に、住宅負担を抱える層の余裕が回復すれば、耐久消費や教育、住関連支出は戻りやすくなります。家計の見た目の豊かさと、実際に使える余白の差をこれまで以上に丁寧に見る必要があります。
読み方の要点:2059万円は全世帯平均、1264万円は貯蓄保有世帯の中央値、675万円は全世帯平均の負債です。対象の違う三つの値を一つの「標準的な家計像」に合成しないことが、今回の統計を誤読しない近道です。