2024年、全国の救急自動車は771万8,380件出動した。1日平均に直すと約2万1,088件、全国合計を時間で均すと約4.1秒に1回の出動である。

同じ年に搬送された人は676万9,172人。そのうち「軽症(外来診療)」は317万1,350人、構成比46.8%だった。「半分近くが軽症」という数字だけから、救急車の多くが不要不急の利用に使われた、と受け取りたくなるかもしれない。しかし、この統計の軽症は通報時の自己判断ではなく、病院で初診を受けた後の入院加療の必要性で区分される。数字が示す範囲を先に確認しないと、利用者にも現場にも実態と違う結論を当てはめてしまう。

この記事でわかること
・771万件を「1日」「時間」に直すと、どの程度の規模なのか
・軽症46.8%が表すものと、表さないもの
・件数、傷病程度、現場到着・病院収容時間を一緒に見る理由

771万件は、何を数えた数字なのか

一次資料は総務省消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」で、対象期間は2024年1月から12月までの全国集計である。記事では、傷病程度別の搬送人員と所要時間の統計と同じ救急自動車の系列を使う。消防防災ヘリコプターを含む全出動件数は772万740件であり、救急自動車だけの771万8,380件とは2,360件の差がある。小さな差ではあるが、異なる系列を混ぜないために区別しておく。

2024年の救急自動車
出動件数:771万8,380件(前年比7万9,822件増、1.0%増)
搬送人員:676万9,172人(前年比12万7,752人増、1.9%増)
現場到着所要時間:平均約9.8分
病院収容所要時間:平均約44.6分

2024年はうるう年なので、1日平均は7,718,380÷366日=約21,088件となる。1年の秒数31,622,400秒を出動件数で割ると、約4.10秒に1件である。ただし、これは全国で起きた出動を均した換算だ。一つの救急隊が4.1秒ごとに出動する、あるいは地域ごとの混雑が同じ、という意味ではない。要請は時間帯・季節・人口密度によって偏り、統計の年平均はその偏りを消している。

前年と比べると、出動は1.0%増、搬送人員は1.9%増だった。搬送人員の伸びの方が大きく、単純に「件数だけが増えた」年ではない。さらに、事故種別では急病が519万5,867件で全出動の67.3%を占める。一般負傷は122万4,778件(15.9%)、転院搬送は58万1,928件(7.5%)、交通事故は39万3,941件(5.1%)である。救急需要を一括りにすると見えにくいが、急病と一般負傷で8割超を占める構成であり、交通事故だけで説明できる規模ではない。ここに至る背景の全てはこの統計だけでは特定できないものの、事故種別を分けることは、需要を単一の利用行動へ還元しない出発点になる。

「軽症46.8%」は通報時の判定ではない

2024年の救急搬送人員を傷病程度別に分けたグラフ

消防庁の定義では、軽症は「入院加療を必要としないもの」、中等症は「重症又は軽症以外のもの」、重症は「3週間以上の入院加療を必要とするもの」である。死亡は初診時に死亡が確認された人、その他は医師の診断がない人や傷病程度が判明しない人などを指す。ここでの傷病程度は、入院加療の必要度を基準にした、搬送後の区分である。

したがって、軽症46.8%は「通報した人の46.8%が救急車を呼ぶべきでなかった」という判定ではない。消防庁自身も、軽症のなかには早期に病院での治療が必要だった人や、通院による治療が必要だった人が含まれると注記している。軽症(外来診療)と、不要不急は同じ言葉ではない。通報時点の症状、既往歴、周囲が得られた情報、夜間や休日に利用可能な医療機関は、この表からは分からない。

この記事は個別症状の緊急度を判断するものではない。急な重い症状や生命の危険が疑われる場合は、統計上の割合を理由に通報を控えないでほしい。

むしろ、2024年は軽症の人数が前年から4万7,482人減り、構成比も48.5%から46.8%へ1.7ポイント下がった。一方で中等症は16万7,290人増えて301万7,912人となり、構成比は42.9%から44.6%へ1.7ポイント上がっている。軽症の比率だけを固定的に眺めると、こうした内訳の変化を見落とす。消防庁の長期推移でも、軽症の構成比は下がる一方で搬送人員は増え、中等症は人数・構成比とも増えていると説明されている。

半数を切った軽症率の裏で、中等症が増えた

2024年の内訳は、軽症317万1,350人、中等症301万7,912人、重症49万1,471人、死亡8万6,199人、その他2,240人だった。人数から中等症・重症・死亡を合計すると359万5,582人で、全搬送人員の約53.1%になる。表の構成比を足すと53.2%になるが、これは各区分を四捨五入しているためである。

ここから「半数以上が重いから問題ない」とも言えない。中等症以上の比率は、救急隊が必要とされる事情の一側面を示すにすぎず、搬送先の受入れや救急隊の配置、地域ごとの距離までは表さない。ただ、軽症率を根拠に利用者だけを責める見方にも、同じ統計を根拠に需要の問題を無視する見方にも無理がある。出動件数、搬送された人の内訳、1件にかかる時間は、同じ方向を向くとは限らない。

高齢者の搬送人員・構成比が長期的に増加していることも、消防庁は別の図で示している。年齢構成の変化を救急統計だけで因果説明することはできないが、救急需要を利用マナーだけで説明し切れない理由の一つにはなる。人口構成の変化は、日本人91.2万人減、外国人33.1万人増という人口の内訳とも重なる論点である。

逼迫は「何件来たか」ではなく、隊が戻れるまでの時間にも表れる

2019年と2024年の現場到着時間と病院収容時間の比較

2024年の現場到着所要時間は平均約9.8分で、119番通報を受けてから現場に到着するまでを指す。前年の約10.0分からは短くなったが、新型コロナ禍前の2019年と比べると約1.1分長い。病院収容所要時間は、119番通報から医師へ引き継ぐまでの平均で約44.6分。前年の約45.6分よりは短い一方、2019年比では約5.1分長い。

この二つは同じ時間ではない。病院収容所要時間には、現場到着までに加えて、現場活動、搬送、医師への引継ぎまでが含まれる。だから到着時間だけでは、救急隊が次の要請に戻れるまでの占有時間を読み切れない。「前年比で改善した」ことと、「コロナ禍前の水準に戻った」ことも別の評価である。

地域差も全国平均には埋もれる。都市部では要請の重なりや受入先の探索、地方では距離や医療資源への到達が、それぞれ所要時間に関わり得る。どの要因がどの地域で大きいかは、この全国表だけでは決められない。人口が集中する地域の変化は、東京圏の転入超過を整理した記事と併せて見てもよいが、人口移動の数字だけから救急の遅延を断定することはできない。

適正利用を論じるなら、統計が答えない問いを残す

統計から直接確認できるのは、何件出動し、何人を搬送し、初診後にどの傷病程度へ分類され、平均でどれだけ時間を要したかである。一方、各通報がその時点でどの選択肢より適切だったか、相談窓口や地域医療への導線が機能していたか、どの地域・時間帯で救急隊が不足したかは、この年次集計だけでは判定できない。

「軽症率」を適正利用の唯一の指標にすると、搬送後の結果を通報時の判断へそのまま戻してしまう。件数、傷病程度、現場到着・病院収容時間、地域差を分けて読む必要がある。

そのため、軽症率は無視すべき数字ではなく、定義と限界を添えて使うべき数字である。本稿の考察は、軽症の構成比が下がり中等症が増えた2024年の変化が、単一の割合だけで全国の救急需要を説明できないことを示す、という点にある。利用者の行動、救急隊の数、病院側の受入れ、人口構成などの要素を、この表の外にある問いとして残すのが適切だろう。

まとめ:46.8%を「不要不急」に読み替えない

・救急自動車の出動は771万8,380件で、全国平均では約4.1秒に1回、前年比1.0%増だった
・軽症46.8%は初診後に入院加療を必要としないとされた区分であり、通報時の妥当性を直接判定しない
・軽症は前年より減る一方、中等症は16万7,290人増え、構成比も1.7ポイント上昇した
・現場到着は平均9.8分、病院収容は44.6分で、前年より短いが2019年よりは長い

救急の問題を考える出発点は、統計の一つの割合から結論を急がないことだ。救急を支える負荷は、出動件数だけでなく、搬送後の内訳と、医師へ引き継ぐまでの時間にも表れる。

データソース:総務省消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」(救急業務の実施状況:表1・表3・表9・図10・図11)

出典・参考資料
トップページへ戻る