地域のバスが減る理由を「利用者が少ないから」だけで説明すると、供給側の変化を見落とす。国土交通省の資料では、バス運転者は2016年度から2023年度に1.9万人減り、11.4万人になった。同じ資料は、2016年度から2024年度に路線バス約15,804km、鉄軌道約533kmが廃止されたとしている。

この記事でわかること:バス運転者数が7年で減った規模、廃止距離が示すものと示さないもの、利用者数だけでは決められない地域交通の論点。

地域交通の制約は、需要が少ないことだけでなく、「運行できる人」が減ることでも起きる。運転者、車両、運行を設計する自治体の担当者がそろわなければ、必要な移動があっても従来どおりの路線を維持することは難しい。

7年で1.9万人減ったバス運転者を、供給力の縮小として見る

国土交通省資料のグラフでは、バス運転者数は2016年度の13.3万人から2023年度の11.4万人へ減っている。差は1.9万人、割合にすると約14.3%である。これは全国合計の運転者数の推移で、ある市町村で何便が減ったかを直接示す数字ではない。それでも、運行本数や運転時間を支える人員の土台が全国で小さくなっていることは読み取れる。

路線バスは、車両があればすぐ増便できるサービスではない。安全に運転できる人、運行管理、整備、休憩を含めた勤務体制が必要になる。運転者数が減る局面では、利用者がいる時間帯に便を残すために、それ以外の時間帯や路線を見直す判断が生じやすい。利用者数の統計だけを見ていると、その前段にある「供給できる総量」の制約が見えにくくなる。

2016年度13.3万人から2023年度11.4万人へ減少したバス運転者数の推移グラフ

13.3万人から11.4万人への減少は、毎年同じ速度で起きたわけではない。資料に並ぶ年度別の数値は13.3万人、13.3万人、13.2万人、13.2万人、12.5万人、11.6万人、10.8万人、11.4万人で、途中には反発もある。したがって、「毎年必ず同じだけ減る」と外挿することはできない。ただ、2016年度を起点に見れば、2023年度の水準は明確に低い。単年の増減より、担い手を確保する難しさが長期に続いていることが重要だ。

運転者数の減少を、高齢者や地方だけの問題と決めつけることも避けたい。都市部でも朝夕の混雑時間、深夜、郊外への長距離路線など、必要な時間に必要な人数を配置できるかが課題になる。地域によっては利用者が少ないこと、別の地域では運転者の採用競争が厳しいことが、同じ「減便」という結果に重なって表れる。地域交通を比べるときは、利用者数、運転者の見通し、地理、代替手段を一緒に見る必要がある。

15,804kmの廃止は、一本の原因に還元できない

国土交通省は2016年度から2024年度に、路線バス約15,804km、鉄軌道約533kmが廃止されたとしている。単純に合算するなら16,337kmだが、バスと鉄軌道は運行形態も役割も異なるため、同じ重みで評価すべきではない。この記事では、交通網がどれだけ縮んだかを表す目安として、両者を分けて扱う。

また、廃止距離は廃止された区間の規模を示す指標であって、減った便数、失われた座席数、利用者が目的地まで行けなくなった程度を直接示すものではない。短い区間の廃止でも、病院や高校へつながる唯一の便であれば影響は大きいことがある。反対に、別の路線や鉄道、送迎が利用できるなら、距離の割に影響が小さい場合もある。

約15,804kmは2016年度から2024年度までの路線バス廃止距離の累計、約533kmは鉄軌道の累計である。特定の年度だけの減少、または運転者不足だけで生じた廃止距離ではない。

採算、人口減少、学校・病院・商業施設の再編、車両更新費、自治体の財政、運転者不足などは相互に関わる。路線が廃止されたからといって、その全てを運転者数の減少に帰すことはできない。逆に、利用者数が少ないからといって、供給の制約を無視してよいわけでもない。廃止距離と運転者数は同じ資料に載るが、片方がもう片方をどれだけ引き起こしたかを示す因果データではない。

地域の人口配置もこの議論と切り離せない。東京圏への人口移動を扱った記事が示すように、居住地の偏りは需要の地域差を広げる。一方、通学、通院、買物の移動は、利用者数が小さくても止めにくい。少人数だから不要なのではなく、少人数ゆえに代替手段を個別に確保しなければならない場合がある。

自治体の84%が専任ゼロという、もう一つの不足

資料は、人口5万人未満の自治体では84%が地域交通の専任担当者ゼロであることも示している。運転者の不足だけでなく、路線の再設計、事業者との調整、利用データの確認、住民への説明を担う側の人手も限られている。新しい仕組みを導入すれば直ちに解決する、という話にならない理由はここにある。

例えば、デマンド交通、公共ライドシェア、スクールバスや病院送迎との連携は、地域の実情に合わせられる可能性がある。しかし、予約の受け付け、運行範囲、既存事業者との役割分担、事故時の責任、利用者への周知を設計しなければ、単に車両を増やすだけでは機能しない。資料が挙げる「輸送資源のフル活用」には、車両と運転者だけでなく、調整を続ける体制も含まれる。

2016年度から2024年度に廃止された路線バス15804キロメートルと鉄軌道533キロメートルの比較グラフ

路線バス、タクシー、公共ライドシェア、学校・病院・福祉施設・商業施設の送迎をどう組み合わせるかは、地域ごとに答えが違う。定時定路線のバスが必要な場所もあれば、予約制の小型車両の方が使いやすい場所もある。どちらか一方を全国一律の正解とするのではなく、通学・通院の時間帯、乗降場所、移動できない人の数を把握して選ぶことが出発点になる。

「残した距離」ではなく、到達できる生活を測る

地域交通を評価するとき、廃止距離だけでは足りない。住民が医療、教育、買物、行政手続きにどれほどの時間で到達できるか、予約が必要な場合に急な受診へ対応できるか、家族による送迎負担がどれだけ変わったかを追う必要がある。資料も、移動の不便が外出・通院機会の減少や送迎負担の増大につながり、地域の活力を弱める可能性に言及している。

そのため、対策の成果を「新しいサービスを何台導入したか」だけで判断するのは不十分だ。便数、実際の利用、予約が取れなかった件数、目的地別の到達時間、運転者の勤務を維持できているかを、導入前後で見たい。数字を地域間で比べるときも、人口、面積、高齢化、既存の鉄道・タクシーの有無が異なることを前提にする必要がある。

住民にとって重要なのは、制度名よりも「明日の通院に間に合うか」「高校へ通えるか」「車を運転できなくなった後も買物へ行けるか」である。定時定路線を残すことが最善の地域もあれば、予約型の運行を組み合わせた方が待ち時間や迂回を減らせる地域もある。どちらの場合でも、変更前に利用者の移動目的と時間帯を把握し、変更後に実際に目的地へ到達できたかを確かめることが必要になる。

また、運転者を増やす施策と、今いる運転者が働き続けられる条件を整える施策は分けて考えたい。採用だけに目を向けると、休憩や勤務の見通し、運行管理、車両整備など現場の継続条件が後回しになりうる。地域が必要とする便を維持するには、運転者の人数だけでなく、無理のない勤務で安全に回せるダイヤか、代替サービスと役割を分担できているかまで検証する必要がある。

自治体にとっても、廃止や変更の告知を出して終わりではない。高齢者、学生、車を持たない世帯、観光客など、影響を受ける人が違うため、同じ説明会や同じ時刻表だけでは届かないことがある。利用者の声を聞く仕組みと、運行後の乗降データを見直す仕組みを続けることで、限られた資源の配分を少しずつ調整できる。人手が限られる自治体ほど、こうした検証を外部の関係者と分担する意義が大きい。

見るべきは利用者数だけでなく、必要な移動を安全に運行し続けられる供給力である。バス運転者の減少と路線廃止は、地域交通が「需要を待つサービス」から「限られた輸送資源を組み直すサービス」へ変わっていることを示す。路線を守るか、別の形で移動を守るかという選択は、採算だけでは決められない。地域ごとの到達可能性を確かめながら、運転者と調整役を含む供給の基盤をどう維持するかが問われている。変更を急ぐ局面でも、代替手段を実際に使える人と使えない人を分けて確認することが、移動の権利を守る最初の条件になる。地域の合意形成にも、この確認を支える時間と情報が必要だ。

データソース:国土交通省「交通空白」解消に向けたその他の取組状況

出典・参考資料
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