2025年に発生した労働争議の「総争議」は295件で、前年の278件から17件(6.1%)増えた。総参加人員も10万532人と、5,207人(5.5%)増加した。一方、争議行為を伴った争議は77件で、前年より1件多いにとどまる。件数の小幅な変化に対し、行為参加人員は1万7,354人と前年の8,982人から93.2%増えた。
厚生労働省が2026年8月3日に公表した「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」は、賃上げ局面の労使関係を、妥結賃上げ率とは別の角度から示す。2025年は「争議が急増した年」というより、争議行為の件数はほぼ横ばいのまま、参加人員と労働損失が特定分野で大きく動いた年だった。
295件はストライキの件数ではない
この調査の総争議は、すべての労働争議を指す。内訳は、争議行為を伴う争議77件と、争議行為はないが労働委員会など第三者が解決に関与した争議218件である。後者も含むため、総争議の増加をそのままストライキ増加と読むことはできない。
| 指標 | 2024年 | 2025年 | 前年差 |
|---|---|---|---|
| 総争議件数 | 278件 | 295件 | +17件(+6.1%) |
| 総参加人員 | 95,325人 | 100,532人 | +5,207人(+5.5%) |
| 争議行為を伴う件数 | 76件 | 77件 | +1件(+1.3%) |
| 行為参加人員 | 8,982人 | 17,354人 | +8,372人(+93.2%) |
出典:厚生労働省「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」(2026年8月3日)
行為参加人員が倍近くになったのは、件数が増えたためではない。争議行為を伴う77件の総参加人員は7万2,097人だが、実際に行為に参加した人員は1万7,354人であり、二つの人数は同じではない。さらに、1件が複数企業に及ぶ場合も、複数月にまたがる場合も原則1件として数える。件数を企業数や職場数とみなすのも誤りだ。
要求は「賃金だけ」ではない
総争議295件を、労働者側が出した主な要求事項でみると、最も多いのは賃金の178件(総争議件数の60.3%)。前年の154件から24件増えた。続いて組合保障・労働協約が110件(37.3%、前年差16件増)、経営・雇用・人事が82件(27.8%、同8件減)だった。
| 要求事項 | 2025年件数 | 総争議に対する比率 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 賃金 | 178件 | 60.3% | +24件 |
| 組合保障・労働協約 | 110件 | 37.3% | +16件 |
| 経営・雇用・人事 | 82件 | 27.8% | −8件 |
| 賃金以外の労働条件 | 53件 | 18.0% | +11件 |
出典:厚生労働省「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」(2026年8月3日)
ここで比率を足して100%を超えることは統計の誤りではない。主要要求事項は1争議につき主なものを2つまで数える複数回答だからである。例えば賃金を巡る交渉と、組合活動や雇用に関する要求が同じ争議に並ぶ。賃金要求が6割という数字は、「争議の6割が賃金だけを問題にした」という意味ではない。
内訳では、基本給・諸手当の改定75件、賞与・一時金の改定53件に加え、「その他の賃金に関する事項」が51件だった。賃上げ率だけでは捉えにくい賃金制度や個別条件も、争点に含まれている。
医療・福祉は件数、運輸は損失日数が突出
争議行為を伴う77件を産業別にみると、医療・福祉が44件、行為参加人員8,418人で最多だった。製造業と教育・学習支援業は各8件、運輸業・郵便業は6件である。しかし労働損失日数は運輸業・郵便業が3万120日で、全産業の3万1,380日の約96%を占めた。医療・福祉は419日、製造業は618日だった。
| 産業 | 件数 | 行為参加人員 | 労働損失日数 |
|---|---|---|---|
| 医療・福祉 | 44件 | 8,418人 | 419日 |
| 運輸業・郵便業 | 6件 | 6,989人 | 30,120日 |
| 製造業 | 8件 | 1,283人 | 618日 |
| 教育・学習支援業 | 8件 | 126人 | 201日 |
出典:厚生労働省「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」(2026年8月3日)
つまり「どこで多かったか」の答えは指標で変わる。件数・参加人員では医療・福祉、労働損失日数では運輸業・郵便業である。産業別件数は就業者数や事業所数で割った発生率ではないため、産業規模を無視して労使関係の緊張度を順位付けすることもできない。
4分の1は翌年へ繰り越し
総争議295件のうち、2025年中に解決または解決扱いとなったのは218件(73.9%)、翌年へ繰り越されたのは77件(26.1%)だった。解決・解決扱いの内訳は、労使直接交渉45件、第三者関与68件、その他の解決扱い105件である。第三者関与では労働委員会によるあっせんが63件と大半を占めた。
「その他(解決扱い)」には、当事者間で解決方法がない支援ストや政治スト、解決事情が明らかでない案件なども含まれる。したがって、218件をすべて同じ意味での合意成立と受け取ることはできない。解決した案件の継続期間では91日以上が81件(37.2%)で最も多く、短期決着だけの統計でもない。
2025年の数字は、賃金が最大の争点であり続けたことを示す一方、組合保障・労働協約や雇用・人事の論点も重なっていることを示す。賃上げの広がりを評価する際には、賃金額だけでなく、争議の要求内容、行為参加人員、解決までの経路を分けて見る必要がある。