農林水産省は2026年8月7日、2025年度の食料自給率を公表した。カロリーベースは37%、生産額ベースは66%、摂取熱量ベースは45%である。一方、総務省統計局が2026年2月6日に公表した2025年平均の家計調査では、二人以上の世帯の食料支出は月平均9万4,895円、前年と比べた実質増減率は1.2%減だった。
二つの統計はどちらも「食」に関わるが、測っているものは別である。自給率は国内の食料供給・生産を、家計調査は世帯が実際に購入した支出を表す。自給率が上がっても食費が下がるとは限らず、食費が増えても自給率が下がったとは限らない。まず分母と時点を分けて読む必要がある。
自給率は三つの分母で数字が変わる
食料自給率は単一の「国内産の割合」ではない。カロリーベースは、供給熱量に占める国内生産による熱量の割合を示す。生産額ベースは、国内生産額が国内消費仕向額に占める割合であり、価格を反映する。摂取熱量ベースは、国民健康・栄養調査の摂取熱量を分母として、国内生産による熱量を対応させる指標である。
| 指標 | 割合 | 何を基準にするか |
|---|---|---|
| カロリーベース | 37% | 食料供給熱量 |
| 生産額ベース | 66% | 国内消費仕向額 |
| 摂取熱量ベース | 45% | 実際の摂取熱量 |
出典:農林水産省「令和7年度食料自給率・食料自給力指標について」(2026年8月7日)
例えば、生産額ベースがカロリーベースより高いからといって、熱量としての国内供給が66%という意味にはならない。肉類、野菜、果実など、単位当たりの価格が高い品目の国内生産は生産額ベースに強く表れ得る。他方で、油脂類や飼料原料を含む穀物など、熱量への寄与が大きく輸入への依存度も高い品目は、カロリーベースに影響する。
摂取熱量ベース45%も、カロリーベース37%の置き換えではない。供給段階のロスや廃棄を含む供給熱量ではなく、調査で把握した摂取熱量を用いるためである。食料ロス削減や食べ方の変化を考える際には意味のある比較軸だが、供給構造そのものをそのまま示す数字ではない。
家計調査の9万4,895円は「二人以上世帯」の月平均
家計調査の食料支出は、2025年1月から12月までの二人以上の世帯の平均的な消費支出の内訳である。月平均9万4,895円は、全世帯や単身世帯の平均ではなく、また食料の国内生産額でもない。外食や調理食品を含む家計上の「食料」への支出を、購入額として捉えた数値である。
| 項目 | 値 | 比較の向き |
|---|---|---|
| 月平均の食料支出(名目額) | 94,895円 | 2025年平均 |
| 食料支出の実質増減率 | 前年比 1.2%減 | 物価変動を調整した購入量の変化に近い指標 |
出典:総務省統計局「家計調査報告(二人以上の世帯)2025年平均結果」(2026年2月6日公表)
ここで見落としやすいのが、名目額と実質増減率の関係だ。9万4,895円は円で支払った名目額であり、実質1.2%減は物価変動を調整して計算した前年との比較である。食品価格が上がれば、名目の支出額が高水準でも、同じ金額で買える量は減り得る。逆に、実質減は必ずしも家計の請求額が前年より減ったことを意味しない。
供給の割合と家計負担をつなぐときの注意点
自給率と食費は、為替、国際商品価格、国内の天候、流通コスト、加工・外食の価格、世帯構成などを通じて間接的には関係する。しかし、二つの公表値を直接に割ったり、「自給率37%だから食費の63%が輸入品代」というように読んだりすることはできない。
| 統計 | 主な対象期間 | 分母・単位 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 食料自給率 | 2025年度 | 熱量または金額 | 国内供給・生産の構成 |
| 家計調査の食料 | 2025年 | 二人以上世帯・円/月 | 家計の購入支出と実質的な動き |
出典:農林水産省(2026年8月7日)、総務省統計局(2026年2月6日)の各公表資料を基に作成
さらに、対象期間も一致しない。自給率は2025年度、家計調査の年平均は暦年2025年である。年度と暦年のずれ、供給段階と購入段階の違い、熱量と金額の違いが重なるため、同じ年の数字であっても単純な因果関係は示せない。
見る順番としては、まずカロリー・生産額・摂取熱量のどれを論じているのかを確認する。次に家計側では、世帯類型、名目額か実質指数か、月平均か前年同月比かを確かめる。そのうえで品目別の価格や購入量、輸入価格などの追加統計を重ねれば、供給構造と家計負担がどこで結び付いたのかを、より慎重に検討できる。
2025年度のカロリーベース37%と、2025年の二人以上世帯の月9万4,895円は、どちらも重要な数字である。ただし前者は国内でどれだけの熱量を賄う構造か、後者は世帯が食にいくら支出したかを示す。「国内で作れる割合」と「家計が払う金額」を分けて読むことが、食をめぐる統計の誤読を避ける出発点になる。